西洋と東洋の文化の違いについて考えるとき、まず思い浮かぶのが「西洋は個人主義」、その反対に「東洋は集団主義」というものではないでしょうか。
この投稿ではこの「個人主義」、「集団主義」の違いを整理し、特に仕事の場面でそれらの性質がどのように現れるかを考察します。
目次
個人主義とは
「私は私」であることを自由に表現すること
個人主義とは、独立した一個人としての「私」を重視するものの考え方のことです。
自身の特徴や性格、能力は、自分の本来の特性から派生したものである考えます。自分自身の内に持っている考え方、嗜好、価値観が「私」を形作っているので、「私は私」「俺は俺」「ボクはボク」という考え方です。
人はそれぞれ顔が異なるように、個性も皆異なります。個人主義というのは、周囲と異なるユニークさ、独自性に価値を認めます。そしてその「私」の持つユニークさ、独自性は周囲の制約を受けず、「私」は自由であるべきと考えるのです。
そしてここからが重要なのですが、
個人主義はその「私は私」「ユニークな私」を外に向かって表現するのです。自分の好み、自分の考え、自分の意見、自分の価値観を躊躇することなく表に出す、これが個人主義の最たる特色です。
そして各個人が自分独自の考えや意見を持ち、それらを自由に表現することを周囲が尊重し、お互いのユニークさを認め合うということが個人主義の大前提なのです。
個人による物事の達成を重視する
個人主義の社会では、個人が物事を達成し、成就することを称賛します。
皆さんもご存知の通りアマゾンや、アップル、Facebookなどの会社が世界を席巻しています。
これらの企業が生まれたアメリカは個人主義が広く受け入れられている社会です。そしてその社会で称賛の対象となっているのはアマゾンやアップル、Facebookを立ち上げ、ビジネスを大きく成長させたジェフ・ベゾス氏であり、故スティーブ・ジョブス氏であり、マーク・ザッカーバーグ氏個人なのです。
ここでの本質は、称賛の対象となるのが、自身の能力を最大限に活用し、機会を捉え、企業を大きく成長させたその個人に向けられているということです。
集団主義とは
社会文脈の中で「私」を定義する
集団主義的な社会では、ある一個人のことを語るとき、その個人の社会的な位置づけ、周囲との関係を重視します。
上にも述べたとおり、個人主義的な社会では「内なる自分」から一個人を定義しますが、集団主義的な社会では「自分の外」から一個人を定義するという違いがあります。
例えば「会社の中では課長」「家に帰るとお父さん、お母さん」「見知らぬ人との間ではどこの会社に勤めているか」等々、周りと自分の関係から「私」を位置づけるのです。
同じ会社の中でも、社長から見れば「中間管理職の一人」ですし、部下から見れば「上司」です。ある一個人が文脈や見る角度を変えるといろいろな役割を担っているということですが、集団主義社会では「私」をそのときの文脈から表現するのです。
社長の前では中間管理職、課長としての「私」、
部下の前では上司としての「私」、
子どもたちの前では父、母としての「私」
になるのです。
個人主義社会では「本来の自分」「ありのままの自分」をそのまま表現することが尊重されますが、集団主義社会では「本来の自分」が社会生活を送る上ではあまり重視されません。
それよりも、社会文脈の中にある「私」がその役割を果たすことの方が大事なのです。
「私たち」「内と外」意識が強い
集団主義社会では自分の所属するグループ、コミュニティーとの一体感、帰属意識を優先、重視します。自分の属する家族や会社、カラオケ仲間、同好会、サークルなどへの帰属意識、グループの一員という自覚を強く持ちます。
そして「私たち」のグループと、「その他」のグループを明確に分けます。日本語でいう「内と外」のように、自分の属するグループ以外の人達を敬遠、排除する傾向があります。
ですから、ある個人がグループに新しく入るということは、非常にハードルが高いということでもあります。集団主義的性格の強い社会では、「内と外」意識が特に顕著になります。
グループ内での調和、融和を重視する
集団主義社会における個人は、周囲との関係があってこその「私」です。
そして「私たち」の中で「私」が心地よくやっていくために、所属しているグループやコミュニティー内での調和や融和を重視します。
他のメンバーとの争いを避け、皆と仲良くやていく。メンバーとはお互い「持ちつ持たれつ」の関係を築き、そこでの絆を大切にするのです。
個人主義的な働き方とは
直接的・明示的なコミュニケーション
個人主義が強い文化においては、直接的、明確で、透明性があり、オープンなコミュニケーションがよいとされています。
個人主義社会は「各個人がユニークな、独特の個性を持っている」という前提に立った社会です。ですから個人同士がコミュニケーションする際には、直接的で明確な会話でそれぞれの立場や考えを表現しなければ効果的な意思疎通ができません。あいまいな表現、はっきりしないモノの言い方では誤解しか生まれないと考えるのです。
そのような社会では「意図することをそのまま言葉にして表現する」ことが重視されます。そしてコミュニケーションの受け手は、相手が言ったことをそのまま額面通りに解釈することが一般的です。
こうしたコミュニケーションを行う文化をローコンテクスト文化と呼びます。
(※ローコンテクスト文化についてはこちらを参照してください。)
また、よいコミュニケーションとは誤解を生まないものを指しますので、話し手、書き手の責任が大きいという特徴があります。
受け手の側が誤った解釈をした場合、その責任は話し手、書き手にあるということですから、とにかく相手にわかりやすいよう、明確な表現で意思疎通をしなければなりません。
ドライな人間関係の構築
個人主義社会ではビジネスの関係といえばドライな関係です。関係を築くのはお互いのビジネス上の利益があるから、という点のみを重視すると言っても過言ではありません。そして一旦お互いの利益が認められなくなると、その関係は何のためらいもなく解消されます。
これは社内における人間関係においても当てはまります。
あなたが雇用されているのは、その会社で足りないとされる部分が、あなたのスキル、経験等が埋めてくれるからです。
あなたの仕事が評価されているのは、あなたの仕事ぶり、経験、スキルであって、周りがあなたのことを好きだから、あなたがいい人だからではありません。
もし会社が状況に応じて戦略を変更し、あなたのいる部署が必要ないと判断されれば、あっさりとその部署とそこの従業員を解雇します。
他の部署に配置換えするということも場合によってはあるかもしれません。しかし、それもあくまであなたのスキルや経験が必要とされるからであって、「あなたをクビにするのはかわいそう」という温情からではないことは確かです。
認知的信頼の構築
上にも少し触れましたが、個人主義社会のビジネスにおける人間関係、信頼構築で最も重要なことは相手のスキル、経験、これまでの業績です。
誰々の知り合いだから、というのは個人主義社会では考慮されません。
また家族による同族経営もあまり見られませんし、どこかの会社との付き合いが長いから「えこひいき」するということも稀です。
さらに、特徴を挙げるとするとビジネスとプライバシーを決して混同しません。仕事上の付き合いをプライベートに持ち込んだり、逆にプライベートの付き合いを仕事でも活用することも避ける傾向にあります。
集団主義社会では、お互いへの信頼の証として契約書を締結することが大切です。お互いの理解を詳細に文書の形で残し、相手からの署名を得て初めて相手を信用する、といってもよいぐらいです。
個人のパフォーマンスを重視
個人主義的な社会では、各個人の目標に対するパフォーマンス、達成度合いを見てその人の評価を行います。
ある個人の役割や仕事内容が明確に記された職務記述書(Job Description)に忠実に仕事をすることが個人に求められます。そして評価というのは、職務記述書内の仕事がどの程度の出来だったのか、ということだけが評価の対象になります。
また職務記述書は個人レベルで配布されていますが、これに記載されていないことは一切履行されません。
そして個人主義社会では従業員の業務管理、勤怠管理、報奨やモチベーションに関わることは、全て個人ベースで検討されます。
例えば、ある会社の業績が悪かったとします。しかし、ある社員が華々しい営業成績を残した場合、その社員に対し会社は予め契約書に定められた方法で報いなければなりません。
会社全体の経営状態が悪いから、素晴らしい成績を残した人の給与も据え置くとか、福利厚生を削ったとすると、その社員は一気にモチベーションを失います。
個人主義社会はあくまで個人ベースの実力に注目する社会ですので、その個人の評価をするにあたって周囲の状況が考慮される余地はないのです。
集団主義的な働き方とは
間接的・ほのめかしを使うが、誤解も多い
集団主義的な社会ではコミュニケーションに間接表現、ほのめかし、あいまい表現をよく使います。
個人主義的社会では「意図することをそのまま言葉で表現する」ことが重視されますが、集団主義社会では「言葉で表現されたことが必ずしも意図したことを表していない」ことがあるのです。
またその場にいる人達と既に共有されている情報や認識がある場合、逐一それらに触れてコミュニケーションを行いません。
こうしたコミュニケーションを行う文化をハイコンテクスト文化と呼びます。
(※ハイコンテクスト文化の詳細はこちらを参照してください。)
先に述べたとおり、個人主義的な文化圏では相手に誤解されないよう、明確な言葉で表現するコミュニケーションが望まれるということでした。
それに対し集団主義社会のハイコンテクスト文化では、コミュニケーションの受け手が相手の話し方、顔の表情、声のトーン、身振り・手振りなどから相手の意図を把握することが求められます。
そして良いコミュニケーションの担い手というのは、相手が直接言わない本音の部分を察して理解することができる人のことを指します。
特に相手にあまり良くないニュースや報告をする場合、言いたくないことを言わなければならない場合は暗示的、間接的な言い方をします。そして相手に顔の表情や声のトーン、身振りなどからこちらの意図を相手に察してもらうことを期待するのです。
集団主義社会とはグループ内での人間関係、融和、調和を重視する社会ですから、相手の気分を害したり、相手のメンツを損なったり、関係を壊す可能性があるような言い方をしません。
しかし、このハイコンテクストなコミュニケーションというのは、お互いをよく知る間柄同士であればまだしも、付き合いが長くない人、ましてや外国人には通用しにくいものです。
なにせ、特に西洋の方達は個人主義的な文化を背負い、言葉通りの解釈をする人達です。ハイコンテクスト文化の人達が発する言葉をそのまま解釈してしまい、結局相手を誤解するということに繋がりやすいのです。
人間関係、人とのつながり重視
集団主義的社会では既存の人間関係、内輪の関係を重視し、「外の人」や新しい人間関係よりも古い付き合いの人、身近な人との関係を優先します。
そして新しい人達との関係を築く上では多くの時間とエネルギーを使い、徐々に相手のことを知り、少しずつ相手との距離を縮め、信頼レベルを上げていくのです。
個人主義社会ではビジネスの場面では特にドライな関係、いわばお互いの利害が一致している限り相手の能力や経験、業績などで相手を信頼する傾向がありますが、集団主義社会ではどちらかというと相手と感情的なレベルで共感できるか、ということが重要になります。
そして集団主義社会ではそうした人間関係を重視した信頼構築を築き、お互いを尊重しあい、相手に対しての義務を果たし、忠誠を表すことが大切です。
また集団主義社会においては、プライベートな人間関係がそのまま仕事上の人間関係を築くこともあります。
日本でもお馴染みかもしれませんが、退社後のプライベートな時間に会社関係の人と飲みに行くなどはその典型的な行為と言えます。
雇用上の関係では、会社の上に立つ人は家長的な存在といえます。いわば、部下や従業員の面倒を見たり、彼等を保護、サポートしてあげることが求められるのです。そしてそのお返しに、部下や従業員は上司に対し忠誠や仕事上の義務を果たすという関係です。
また職場での人間関係についても、同僚や上司、部下との間で感情的な結びつきがあることが重要です。仕事だけの付き合いというドライな関係ではなく、より人間同士の付き合いが必要になります。ですから仕事後に飲みに行くとか、休日に同僚と食事に行くということも一般的です。
個人主義社会では契約書とそれへの署名が信頼構築に重要と先に記しましたが、集団主義社会では契約書はそれほど重視されません。あらゆることが事細かく記された契約書に縛られず、お互いの人間関係、信頼関係に基づいて柔軟にお互い対処していくことのほうが優先されます。
チームとしてのパフォーマンス重視
個人主義社会ではあくまで各個人のパフォーマンスが重視されましたが、集団主義社会ではチーム全体でのパフォーマンスを重視します。
各個人が何をしているか、どんな役割があるかも大事です。しかしそれ以上に重要なことは、個々人が助け合い、力をあわせ合うことや、各個人がチーム全体にどのように貢献しているかという視点です。
ですのでマネージャーはチーム全体のパフォーマンスを上げるために各個人がどのような仕事の取組みをしているかに着目します。もしある部下のパフォーマンスが悪いとなると、自分や周りの部下に彼・彼女を手助けするようにします。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回↓は個人主義、集団主義の人たちが同じチーム、同じ職場にいた時に、どんな影響が出てくるかを考察していきます。
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(参考文献)
- Gorodnichenko, Y., & Roland, G. (2013). Understanding the Individualism-Collectivism Cleavage and its Effects: Lessons from Cultural Psychology.
- Hofstede, G., Hofsted, G. J., Minkov, M. (2010). Cultures and organizations: software of the mind: intercultural cooperation and its imprtance for survaival (3rd ed.).
- Victor, D. (2012). Global Advances in Business Communication from Multiple Perspectives: A Panel Discussion from Experts in the Field. Global Advances in Business Communication Journal.