「長袖のシャツとジャケットを必ず着てきてくださいね」
これは日本からの出張者に対して僕がいつもお願いすることです。
僕はこれまで駐在員として20年にわたって6つの国で仕事をしてきましたが、それは全て新興国・途上国、いわゆる「グローバルサウス」での仕事でした。
新興国や途上国では「上下関係を意識する」ところが多く、相手の外見などから
「自分より相手が『上』か『下』か」を瞬時に判断しています。
相手の身体的特徴や身につけているモノで
・相手の年齢
・相手が組織の中でどのあたりの位置にいる人なのか
・どんな権限や役割を担っているか
を外見から推測し判断しているのです。
思い返せば初めて会う方に対し、僕もそんなことを無意識のうちにやっていることがあります。
そして
「この人は『上』の人だろう、
『下』の人だろう」
というのも、これまでの僕の人生経験で得たステレオタイプに左右されていることに思い至るのです。
例えば、ネクタイをしてスーツやジャケットを羽織っている人は『上』の人。
白髪が混じっている人は年齢が僕より『上』で、会社の中でも『上』の方にいる人。
そして僕のステレオタイプに合わない人が出てくると途端に違和感を感じるのです。
例えばヨレヨレのTシャツを着ていたり、自転車で汗だくになって通勤している方が「CEO」と聞いて「ホンマかいな」と驚くことも珍しくありません。
15年ほど前にアジアの国で仕事をしていたとき、年中暑いというのもあって僕は常に日本のクールビズの服装でした。
つまり半袖シャツにノーネクタイという装いが多かったのですが、
現地のマネージャーというポジションにいながらスタッフに呼び捨てにされたり、関係者にぞんざいな扱いを受けることも多々ありました。
それをあるとき現地の方に愚痴ったのですが、そこで言われたのが
「ミスター・オカベ、
あんたは若く見えすぎる!」
僕は当時まだ30代半ばで今のように白髪もなければ口髭もない。
おまけに半袖シャツにノーネクタイのくせに、いつも汗だくになっている僕の姿が
「ただの若造」
「使いっ走り」
としか現地の方に映らなかったということなのです。
それ以降
日本から出張に来られる方、
特に一定以上の権限や役割を担う方には
「長袖のシャツとジャケットを必ず着てきてくださいね」
と一言、事前にお願いするようになったというわけです。
もちろん、常夏の国ではすんごく嫌がられますが、
相手に「自分より『格下』」と認識されることで
必要以上になれなれしくされたり
ナメられる印象を現地の方々に与えてしまうことで
スムーズにいくはずの話も進まなくなってしまうからです。
僕の中でステレオタイプがなかなか変わらないのと同じく、現地の方もそれなりのステレオタイプがあり、しかもそれは一朝一夕に変えられるものではありません。
そんな時は相手のステレオタイプを逆に利用し
「相手がイメージしているマネージャー像」
に合った振る舞いをしていけばいいのだと、常夏の国でスーツにネクタイを絞めて学んだのでした。