海外の方と接していますと、日本では馴染みのない仕事の仕方やコミュニケーションの態度に出会うことがよくあります。
例えば日本と同じく上下関係が重視される社会でも、「上」に向かって「下」の人が声を大にして自己主張することが受け入れられているところも多いものです。
そのような環境では相手が誰であれ、思っていることをその場で発言しないと
「意見がない者」
「ミーティングに呼んでも意味がない者」
として誰からも評価してもらえません。
ならばと「上」の人や年配の方に面と向かって自分の意見をぶつけられるかというと
「私はものすごい抵抗を感じます。」
なぜなら、そんなことをしたらかえって自分の評価を落としてしまうのではないかと心配になるからです。
他の例として、海外でも人脈構築のためのパーティーや食事会がよくあります。
周囲の人はあちこちで自己アピールに余念がないように見えます。
ここで自分の取り組んでいる仕事、これまでの実績をアピールできれば、うまくいけば次の仕事につながる関係が作れるかもしれません。
しかしそれがわかっていても、知らない人に対して堂々と自己アピールできるかというと
「私はものすごい抵抗を感じます。」
私は特に初めての方にお会いする場合、話を聞いている方がむしろ気楽なのです。
いかにも「デキる」風に自分をアピールすることにも抵抗があります。むしろ謙遜してしまって「私なんて大したことありません」という言動がつい出てしまうのです。
ではそのように人の話を聞く方が気楽で、謙虚でいる方がいいからと、誰かが気にかけて質問してくれるのを待っていればいいかというと、そうではありません。
人の話に耳を傾けているだけでは評価されるチャンスも新しい人脈を得る機会も放棄しているのと同じです。
目次
異文化に適応しようとして感じるストレス
周囲がやるように仕事をし、コミュニケーションを取らなければ周囲に理解されない、評価されない、信頼もされない。
それはわかっているけど
私はそんなことはしたくない
そんなこと私にはできない
あぁ困った
あぁどうしよ・・・
これが異文化環境で感じるストレスのひとつです。
異文化適応というと「郷に入っては郷に従え」とよく言い換えられますが、そのプロセスで感じる【4つのストレス】というものがあります。
1. 本来の自分を偽ること
例えばスケジュール通りに物事が進まない社会環境で、スタッフの遅刻や仕事の遅れに逐一怒ったり不機嫌になっていると
「オカベは時間にやかましすぎる」
「オカベみたいな「わからずや」と一緒に仕事したくない」
と私から離れていくスタッフが後をたたなくなります。
だからといって「郷に入っては郷に従う」で、遅刻したりスケジュールを守らない相手に対して
「オマエはしょうがないなあ」
なんて愛想笑いをするのはさらに疲れるものです。
「時間を守ることはプロとして当然」と考えているのに、それを時間感覚に悠長な環境ではなんとなく流してしまう。
このように「相手を尊重しよう」「相手のやり方に合わせよう」という意識が強すぎて「本来の自分」とかけ離れた言動をとることに感じるストレスのことです。
2. 自分の能力の限界を感じる
上に示した例でいえば
「自己アピールや自己主張をがんばらないといけない」
ということはわかっているのですが、そんなこと、まず日本であまりやったことがないわけです。
しかもそれを外国語でやるなんてこと、
「私にはできっこない!」
と自身のスキルのなさに失望してしまうストレスのことです。
3. 相手に嫌われてしまうのでは?という懸念
見知らぬ人に自己アピールしたり、相手にはっきり「ダメ出し」しようと覚悟は決めたとはいえ
「そんなことしたら逆に「ウザい奴だ」と思われるんじゃないか?」
という懸念がどうしても顔を出してくるのです。
そういった日本的な感覚が残っているのでつい周囲の目や感情を気にしてしまい、周囲がやっているように振る舞うことに抵抗を感じてしまうストレスのことです。
4. 「なんで私がそんなことをしないといけないのか?」という憤り
海外でも日本法人で勤務している場合、
「海外とはいえここは日本法人なんだから、現地のスタッフが日本のやり方に従うべきだ」
と考えることがあります。
ここは「日本」だから、わざわざ彼らのご機嫌を取る必要はない。
「郷に入っては郷に従え?
なんでこっちが相手に合わせないといけないの?」
という心理になるのです。
「郷に入っては郷に従う」で
相手の価値観や常識を尊重し、相手がやっているように仕事やコミュニケーションを行っていかなければ評価や信頼を勝ち取っていけない。
そこはわかっているけど、それを実践しようとした時に上のような「4つのストレス」に直面することがあるということです。
そこで無理をして相手に合わせようとすると、相手に対し次第に苦手意識やストレスだけが膨らんでいってしまうのです。
異文化環境でのストレスを乗り切るには?
新しい環境でうまくやっていくには、ひたすら「忍耐」「我慢」で「郷に入っては郷に従う」しかないのか?というと、そうではありません。
異文化適応とは
「好みの違う者同士で、一緒に美味しく食べられるサンドイッチを作る」
作業に似ています。
パンの種類や具材の好み、嫌いな野菜の種類など、お互い好き嫌いがあるわけですが、そこでお互いが満足のいくサンドイッチを作っていくのです。
自分はチーズが苦手なのに、チーズ大好きの相手に合わせてチーズを盛るということではないですし、卵が嫌いだと言っている相手に自分の好みの半熟卵を押し付けるのも違います。
たとえ一時的にその場をしのげたとしても、次第に相手とサンドイッチを作ることが嫌になり、相手の味覚に対する違和感や相手に対する苦手意識が大きくなっていってしまうからです。
これが仕事となると
個人の性格、相手との力関係、組織内の立場など
いろんな要素を合わせて考えなければなりませんが、
異文化適応におけるキーワードは
「相手の許容範囲を探る」
「その許容範囲の中で、自分でも不自然に感じない行動や態度を探って実践する」
ということです。
具体的な例としては以前ご紹介したビズリーチの記事が参考になるかと思います。
いずれにせよ、どう異文化に適応するかを語る上で「万人に通用する」一つのやり方というのはありません。
なぜなら異文化適応の過程で感じるストレスは「人それぞれ」だからです。
個人が持つ経験値や性格、置かれた環境も異なるから、異文化適応の仕方も「人それぞれ」。
できるだけ自分らしく、無理なくやるのが「真の」異文化適応なのです。
なお、今回の「異文化環境で感じる4つのストレス」については動画でも解説しています。
ご興味ありましたら動画もご覧ください!
● Part 4 なんで私が相手に合わせなければならないの?という憤り
(参考文献)
Molinsky, A. (2013). Global Dexterity. Harvard Business Review Press.