海外駐在員のもっとも大事な仕事。
それは日本との「つなぎ役」となり、現地での仕事を円滑に進めるための現地関係者との信頼関係の構築です。
この信頼関係というのは一体どうやって築いていくものなのでしょうか?
これを考えるための視点として、
相手の現地人関係者は、こちらの何に着目
しているか、
現地人関係者がこちらに何を期待しているか、
どのように信頼関係を築こうとするか、
その手段や着眼点を知ることは、外国人と信頼関係を築きあげていく上で大変有効だと思います。
目次
「頭で」相手を信頼する vs. 「心で」相手を信頼する
エリン・メイヤー著『異文化理解力(英知出版)』によると、
欧米諸国では
「頭で相手を信頼する」
傾向がある一方、
アジアや南米、中東、アフリカ等の地域では
「心で相手を信頼する」
という說明があります。
「頭で」相手を信頼する
「頭で相手を信頼する」とは、
相手の職歴や実績、学歴、知識レベルなどで信頼するかどうかを判断することです。
また、
「相手のことが好きかどうか」
「長い付き合いかどうか」といった
私情をはさまないということでもあります。
「心で」相手を信頼する
「心で相手を信頼する」とは、
相手との感情的な結びつき、共感、相互理解を重んじるということです。
言い方をかえれば、それは
「仕事に私情を持ち込む」
ということでもあるのです。
「心で相手を信頼する」文化といっても、それが相手の経歴や業績、学歴、知識レベル等を軽視するという意味ではありません。
ただ、それだけではないプラスアルファ、つまり相手との親近感や、個人的感情がモノをいう傾向があるという意味です。
「心で相手を信頼する」文化圏で重要なことは、仕事のパートナーとの間で時間をかけて関係を築き上げていくことです。
これは一朝一夕にできませんが、
この相手の「素」の部分を知るための時間をはしよってしまうと、いつまで経っても信頼関係が成り立ちません。
「心で」相手を信頼するための手段
では、時間をかけて相手を知り、相手にもこちらのことを知ってもらうために具体的に何をしたらいいのでしょうか。
接待や飲み会
日本では接待や飲み会がありますね。
相手と食事をしたり、酒席をともにする場を設けることで相手の素の部分を知り、相手との関係をより密なものにしようと
します。
アジアや南米などの「心で信頼する」傾向がある文化圏では仕事関係の人と食事をしたり、お酒を飲む機会を設けることが既に一般的なところも多いですし、
これは日本人にとって一番馴染みがある方法ではないでしょうか。
これまでマレーシアやベトナムでの駐在生活を経験しましたが、食事会、飲み会はともに相手との関係を深めていく上で大変有効だと思います。
「心で」相手を信頼するための「雑談」
しかし、同じ「心で信頼する」文化圏でもヨルダンでの関係構築はちょっとやり方が異なります。
まず、
家族との時間を最優先にする人が多く、仕事関係の人と食事することを嫌う人がほとんどです。晩御飯に誘っても迷惑がられますし、ヨルダン人のランチタイムは夕方なので、仕事中にご飯に行くわけにもいきません。
また、ここはイスラム教国なので基本的にお酒を飲む人がいないという事情があります。
そんなわけで、大変地味ですが、仕事と関係のない会話をするために、一緒に仕事する場をより多く設定するしかありません。
そして、ここからが本番です。
そうした仕事の場で、もちろん仕事の話もしますが、その前に
仕事以外の「どうでもいい話」に信じられないぐらい多くの時間をかけるのです。
天気の話から始まって、
家族の話、
最近水の出が悪い、
なぜ老人の車の運転は危ないのか、
映画「ラストサムライ」の小雪のファンだ、
等々、ほんとにどうでもいい話にまず花を咲かせます。
そうするとほとんどの外国人、日本人は次第に仕事のことが頭にチラつき始めます。
ヨルダン人の話す「どうでもいい話」をうわの空で聞き、適当に相槌をうち、この「どうでもいい話」がいつ終わるのか、
いつ仕事の話を切り出そうかで頭がいっぱいになってくるのです。
しかし大変恐ろしいことに、ヨルダン人は、そうした相手の態度をちゃんと見てます。
これまで何度か日本人関係者とヨルダン人の会合をセッティングしてきましたが、
最初の「どうでもいい話」でお互いの会話が成り立っていないとか、ほとんど相手が聞いていないとみるや、ヨルダン人は興ざめするのです。
なぜなら、結局お互いのことを知るために会話をしているのに相手が乗ってこないからです。
そうなると、日本側から仕事の話を切り出しても、相手のヨルダン人はほとんど話を聞かなくなります。今度は彼らがいい加減な相槌を打つ番になるわけです。
オンライン会議は別として、60分の会議時間があるとしましょう。
ここでの正しい時間配分としては、最初の50分を「どうでもいい話」に集中し、最後の10分で全身全霊で仕事の話をするという感じで丁度いいです。
最初の50分でお互いに「どうでもいいお話」ができれば、残り10分の仕事の話は信じれないほどスムーズにいきます。
もちろん60分のうちの50分というのは厳密な数字を指すのではなく、あくまで感覚的なものです。要は、そのぐらい「どうでもいい話」に時間をたっぷりかけることが大事ということです。
そしてこれを何度も何度も繰り返すことで相手との距離を縮めていくのです。
これ、非効率の極みではありますが、実に簡単、かつ効果てきめんです。特別なスキルも必要ありません。
食事会や飲み会で盛り上げるのより、数倍楽だと私は思います。
その他、ヨルダンで関係構築を考える上では2つの大事なことがあります。
「心で」相手を信頼するためにヨルダンで「やってはいけないこと」
初めて会う人に対し、
「お近づきのしるしに」
「これからお世話になります」
と手土産を渡そうとする日本人がいますね。
しかし、
ヨルダンではよほど親しい間柄でない限り、お土産は「ワイロ」です。
よく知りもしない人から何かをもらうという習慣がここにはありません。それがあるのは「ワイロだけ」という認識が根付いています。
この場合、お土産を渡そうとした日本人のみならず、その両者を引き合わせた日本人に対する信頼もそこで失墜します。
「初対面の場ではできるだけ明るく振舞い、笑顔で接しないと」
と普通は思いますよね。
しかしヨルダンでは全くの逆効果です。
ヨルダン人は、初見の相手を非常に警戒した目で見ます。笑顔なんか見せません。
初対面でのこちらの満面のスマイルは、ヨルダン人にとっては
「キモイ」
としか映らないばかりか、
「こいつはプロ意識がない」
「この笑顔は自信のなさの現れ」
とますます不信感を募らせてしまうのです。
初対面のヨルダン人同士を見ていても、お互い「にらめっこ」でもしてるのか?と思うほど笑顔はありません。
笑顔を見せないでいると、不思議なことに「こいつ、デキるな」と思うのだそうです。
これは日本からの出張者にも、現地の関係者に会わせる前に毎回固く釘を刺しているところなのですが、
「ヘラヘラするな」
「歯を見せるな」
ということです。なんかどこかの体育会系の部活での掛け声のようですが。
このあたりのことは以下の投稿に記しましたので、ご興味ありましたらご参考まで。