今回の帰国前、たまには身体のチェックをということでヨルダンのアンマン市内のクリニックを訪れました。
これまでは大きめの病院でやってもらっていたのですが、いつも広い病院内をたらい回しにされて疲れるので今回は近所の小さなクリニックで済ませることにしたのです。
扉を開けると患者さんらしき人の姿はなく、正面に受付があって、そこで受付のお姉さんが手鏡で「付けまつげ」を直しているところでした。
「健康診断の予約をしているオカベです」
「あー、はい、ちょっと座って待っててね」
と、お姉さんは「付けまつげ」がちゃんと付いたのを確認してから隣のドクターの部屋に消えていきました。
ほどなくするとお姉さんが戻ってきて
「じゃあ中へどうぞ」
と言われたので、ドアをノックして部屋に入りドクターと面談が始まりました。
駐在員時代の健康診断の結果を見せ「とりあえずこれを全部やってちょうだい」とお願いしたところ
「オッケー問題ないよ、早速はじめよう」
となったのですが、
とにかくここの健康診断は「ほんっっっっとに」適当でした。
最初に身長を測るということで、まず計測する部分を私の頭より上の位置にもっていこうとするのですが
どうも「たてつけ」が悪いみたいでひっかかって私の頭の上まで持っていけないのです。
私のちょうど鼻ぐらいの高さで計測する部分が止まったままで、上から叩いたり下から叩いたり、両手で持って振ってみたりするのですが動きません。
お姉さんいわく
「あぁ、しょうがないわね・・・
じゃあ、この部分があなたの鼻の位置・・
これが155でと・・・
靴もはいているので
身長はプラス20センチ「ぐらい」でいいでしょう・・・
175でオッケー?」
オッケー?と言われましても・・・
前回は179だったよというと
「じゃあ180ね!」
「いや、もう僕も50過ぎてるし前より身長伸びたら変じゃない?」
「じゃあ179ね!」
・・・なんなんでしょう、この会話は。
体重計はデジタルではなく昔ながらのもので、それに乗ると目盛りが動いて、しばらくするとある数字のところで止まるというものです。
では、と体重計に乗ろうとしましたが、ふと思い出して
「あの、服とか靴は脱がなくていいの?」
と聞いたのですが
「脱がなくていいわよ、
あとでマイナス2キロしておくから」
で終わりです。
まあいいかと体重計に乗ろうとしましたが、目盛りがゼロの位置に合っていません。
そのお姉さんがゼロに合わせてくれまして体重を測ったのですが、体重計から降りるとまた目盛りがゼロに戻っていないのです。
もう知らんわ・・・
そのあと、ドクターと受付のお姉さんの間でBMIの計算の仕方をめぐって見解が違っていたようで、私は二人の怒鳴りあいの協議をしばらく眺めることになりました。
(注:ここの人達は議論のときは特に声が大きいので怒鳴りあいの喧嘩に見えるのです)
最後はドクターがパソコンに向かい、Google検索で「BMI」の計算の仕方を調べ、受付のお姉さんに向かって「ほらみろー」と言わんばかりに自分の説が正しかったことを証明したようでした。
次に心電図の部屋に案内されましたが、そこに置かれてある機械を見て不安になりました。
見るからに古くて心臓の動きをモニターするコードも明らかにボロく、心電図を見てもらっている間に感電死するんじゃないか?と思いました。
だいぶ前に見た「グリーン・マイル」という映画での電気死刑の場面を思い出してしまい、電源スイッチが入れられる瞬間は
「そうなるのだけは勘弁してくれ」
と祈るような気分で緊張しましたが、何とか無事に心電図が終わりました。
そのあと採血やらレントゲンやらがあり、「終わったー」と思っていたら
「あ、忘れてた」
と最後にドクターの部屋で聴覚の検査がありました。
私が日本で経験した聴覚の検査といえば防音のきいた密室に入り、大きなイヤホンをして、音が聞こえたら渡されたボタンを押す、というものでしたが、これまた勝手が随分違いました。
ドクターの部屋には見渡してもそんな密室らしき設備もないので、どうやって聴覚の検査するんだろ?と思っていました。
すると
私と机を挟んで向き合って座っていたドクターが、ちょうど寒い時に両手を口の息で温めるようなポーズをとり口元を隠して何かをささやくのです。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・e・・・e」
「ca・・・u・h・・・r・・e」
「・an・・yo ・・・h・・me」
「Can ・・you・・hear・ me」
「CAN YOU HEAR ME」
はじめはドクターが何を言っているのか、小さな声でささやいているので全く聞き取れないのですが、ドクターがだんだん声を大きくしていって、最後のほうでやっと
「Can you hear me? 聞こえますか?」
と言っているのがわかりました。
最初、私はドクターが何を言っているかより、このオジサンはいったい何をしているのかがわからず茫然としていたのですが、最後に私もあわてて
「あー、聞こえる、聞こえます!」
と言ったら
「ベリー、グッド」
で聴覚検査が終わりました。私が持ってきた健康診断票の聴覚欄にも、左右の耳ともに
「ベリー、グッド」
と記載されました。
何が「ベリー、グッド」なのか、よくわからん健康診断でした。
でも私はこういう適当なところが結構好きです。
血液検査をいい加減にやられると困りますが、身長や体重なら多少間違っていようと私の健康状態をみるのに影響しないと思っているのでなおさらです。
最後の聴覚検査は面白かったのでヨシとしようと思います。
ドクターは終始ものすごく真面目な顔してやっていたので今から振り返るとなおさら可笑しいのです。毎回あんなことをやっているんだろうか?
後からヨルダン人の同僚に聞いたら聴覚の検査なんてやったことがないのだそうです。
「しゃべって、普通に聞こえたらそれでいいじゃん」
みたいに言われまして、それもそうだなと妙に納得してしまうのでした。